歯科と医科の連携には歯周病や糖尿病の医療連携疾患など歯科と内科の連携も数多くあります。頭頸部外科でもある耳鼻咽喉科は、口腔外科でもある歯科と治療範囲も重なり、連携が一番必要であるところではないかと思っています。
鼻腔は鼻中隔(びちゅうかく)によって左右に分けられています。鼻の周囲の顔の骨にはたくさんの中空の空洞があり、副鼻腔といわれ、頬の後ろにある上顎洞(じょうがくどう)、両眼の間の篩骨洞(しこつどう)、額の部分にある前頭洞(ぜんとうどう)、鼻の奥にある蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)と名称があります。顔の中心から左右2対で合計8つあり、洞の奥の方では脳や眼に隣接しています。それぞれの洞は鼻腔と連絡し、細い穴である換気管で鼻腔とつながっています。副鼻腔内は粘膜で覆われており、表面には「せん毛」と呼ばれる細い毛が生えています。せん毛は同一方向に動くようになっています。外から入ってきた異物を分泌物とからめて、せん毛の運動により換気管を通して鼻腔へ排出する仕組みとなっています。換気管が塞がれると、細菌やウイルスが副鼻腔に留まるようになります。
また、副鼻腔に生えている「せん毛」の動きが弱まるため、細菌やウイルスを換気管に運ぶ働きが悪くなり、細菌やウイルスを排除しにくくなります。その結果、細菌やウイルスが増殖し、急性副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症が引き起こされます。
上顎の歯の上には、上顎洞があります。上顎の歯が炎症をおこすと、上顎洞まで波及し、歯性上顎洞炎になってしまうことがあります。原因が炎症を起こした歯なので、一側性であることが特徴で、上顎洞だけでなく隣接する篩骨洞まで炎症が波及することがあります。症状としては、鼻が詰まり、頬が腫れて、痛くなりタマネギが腐ったような腐敗臭のある鼻水がでることが多いです。あまりにも臭いので、はじめは口が臭いといわれたといって来院する患者さんもいます。治療はまず歯科での悪い歯の治療が優先し、ひどいと抜歯することもあります。上顎洞の炎症は、通常は抗生剤を使うことでよくなってきますが、あまりに痛みが強い場合は、耳鼻科的に上顎洞に太い針を刺して膿を抜いて、液体で洗浄することもあります。これを上顎洞穿刺といいます。慢性に移行すると、炎症を起こした上顎洞の換気管を、麻酔下で内視鏡で大きく開けて、膿をだし換気をよくすることもあります。
ここでは歯科インプラントにおける耳鼻咽喉科の役割についてお話しします。インプラントとは、体内に埋め込む医療器具のことをいいます。耳鼻咽喉科では耳の聞こえない人に手術をして装用してもらう人工内耳は英語ではコクレア(内耳)インプラントといいます。顎骨に埋め込む人工歯根を歯科インプラントといいます。歯が無い部位の顎の骨に歯科インプラントを埋め、そのインプラントに義歯を付けます。インプラントを埋入する部位するところが薄い骨だと、埋めても突き抜けてしまうことがあり、骨を厚くする手術をおこなうことがあります。
上顎に歯科用インプラントを埋め込むと、インプラント部が腫れ、一時的に歯性上顎洞炎のように上顎洞に炎症を起こすことがしられています。埋入するときに骨を貫通するようなこともなく、かなり手術がうまくいっても、数日でかなりの炎症を上顎洞でおこしますが、抗生物質を投与することによりほとんどの症例で炎症がひいてきます。しかし、もともと上顎洞に炎症がおこりやすい鼻の状態の場合は、炎症がひかず、長期間の抗生物質の投与や再手術をすることが問題になってきました。上顎に炎症が起こりやすい鼻の状態とは、まず上顎洞の上の方にある換気管が関係してきます。つまる原因としては、鼻が曲がっている(鼻中隔弯曲症)により、換気管周囲のスペースが狭い。または換気管周囲の炎症が強かったりポリープができたりして換気管自体がつまっている。換気管が十分にあいていると、インプラント術後で少々炎症が上顎洞に起こっても、膿が換気管からでていきます。いままでは、上顎洞の下の方に鼻とつながる穴(対孔)をつくり、上顎洞の膿を出していました。しかし対孔から反対に細菌が鼻に入ってくることがしられ、上顎洞の上にある換気管の孔を開けてきれいにするようになってきています。これは耳鼻咽喉科で全身麻酔のもとで内視鏡でできる簡単な手術です。このように鼻の構造が悪いと、歯のインプラントの術後に問題をおこします。最近では、インプラントの術前にCTをとるようになってきました。最近CTも発達し、歯科で主に使うコーンビームCTという、放射線量の低いCTも、撮影範囲が拡がり、歯だけでなく鼻の周囲も撮影できるようになりました。
現在慶友銀座クリニックも保険医療機関であり、インプラント術後におこった歯性の副鼻腔炎(上顎洞炎)に対しては治療を行っております。しかし、保険医療機関という特性から、歯科インプラント手術という自費診療の術前にCT等の画像検査をして、インプラント術前の評価ということは行っておりません。今後は歯科の先生方に対して、耳鼻咽喉科医という立場から、学会や勉強会で鼻及び副鼻腔の解剖を含めた耳鼻科的な情報を教えて、是非歯科の先生方に耳鼻科的な考察を交えたインプラントの術前評価をしていただきたいなと思っております。
◆◆ 参考文献 ◆◆
1)Kunihiro Takanobu, Araki Yasutaka, Oba Toshihiko.Fukuoka Igaku Zasshi. 2014Sep;105(9):182-9.
Minimally invasive endoscopic middle meatal antrostomy for the prevention of maxillary sinusitis in association with dental implantation in the posteriormaxilla--a proposal.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25639025
2)Kunihiro Takanobu, Oba Toshihiko.
Fukuoka Igaku Zasshi. 2013 Jun;104(6):205-13.
Endoscopic sinus surgery for otolaryngological complications associated with dental and oral surgical treatment: a report of three illustrative cases.
Kunihiro T1, Oba T.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24027855
3)Takanobu Kunihiro1*, Hiromasa Kawana2, Rie Kodaka2 and Toshihiko Oba3
Keratocystic Odontogenic Tumor Invading the Maxillary Sinus: A Case Report of Collaborative Surgery Between an Oral Surgeon and an Otorhinolaryngologist
https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/36/4/36_251/_pdf